
アメリカ菓子市場で“定番”に。ハイチュウに学ぶアメリカ進出の成功モデル
「良い商品」は必ず売れる?それはアメリカ市場では通用しない
日本でヒットしている商品でも、アメリカ市場にそのまま持ち込んで成功するとは限りません。品質は高くても文化が違えば、味覚や販路、プロモーション手法も異なります。では、日本発の商品がアメリカ市場で“定番”として認知されるには何が必要なのでしょうか。
ソフトキャンディ「ハイチュウ」は、この問いに対する優れた実例です。本記事では、その成功プロセスを読み解き、日本企業が学ぶべき進出戦略とローカライズのポイントを明らかにします。
日本では考えられない味が“主力”に
ハイチュウの味戦略による現地適応
「ハイチュウ」は、1975年に森永製菓から発売された日本発のソフトキャンディであり、その独特な食感と豊富なフレーバー展開によって、国内外で長年にわたり多くの人々に親しまれてきました。
日本では「ハイチュウ」と聞いて知らない人がほとんどいないほどの知名度を誇り、その浸透によりチューインガム市場が縮小したとも言われるほど、業界に大きな影響を与えました。
しかし、ハイチュウがアメリカ市場で定番商品として定着していることは、意外に知られていません。現在、Walmart、Target、Costcoなど、アメリカ国内の大手スーパーでも広く販売されており、日系・非日系を問わず多くの消費者の間で「定番スナック」としての地位を築いています。
アメリカ進出当初は、日本でも人気のあるストロベリーやグレープ、グリーンアップルといった定番フルーツフレーバーを中心に展開しました。これらは日本とアメリカで共通して受け入れやすい味覚であり、アメリカ人にハイチュウ独特の「噛む食感」を認知させる導入口となりました。
しかし、アメリカ市場での本格的な拡大に向け、現地法人のMorinaga America, Inc.は「味の現地適応」に舵を切りました。
甘さは文化|味覚の翻訳がブランド浸透のカギ
ハイチュウがとったアプローチは、日本の味をそのまま持ち込むのではなく、「アメリカ人にとっての“おいしい”とは何か?」を慎重に調査・分析し、それに合わせて商品を開発するという、いわば“味覚の文化翻訳”でした。
例えば、日本のスイカ味は、果実の自然な甘みや皮の渋みすら感じられるような繊細な味設計ですが、アメリカではむしろ「人工的で濃い甘さ」が“本物のスイカ味”として受け入れられる傾向があります。このようなギャップを理解し、現地仕様にアレンジした味づくりこそが、ハイチュウの成功要因の一つです。
こうした視点に基づき、ハイチュウはフレーバー展開を大きく広げていきました。
キウイ、マンゴー、ブルーベリー、チェリー、バナナなどの果実系フレーバーに加え、「キャンディーアップル」「キーライムパイ」「ストロベリーアイスクリーム」といった“デザート系”の変わり種フレーバーも登場。これらは「デザートミックス」や「ファンタジーミックス」といったシリーズとして展開され、Z世代を中心に話題となりました。
バリエーションは“遊び心”の設計|味で楽しませるマーケティング
「デザートミックス」には、ストロベリーアイスクリームやキャンディーアップルといった、日本人の感覚では少し甘すぎると感じられるフレーバーも含まれています。しかし、アメリカの消費者にとっては“適度な甘さ”であり、味そのものが“ちょっとしたイベント”になっているのです。
さらに、「ファンタジーミックス」では、ブルーラズベリー、ブルーハワイ、レインボーシャーベットなどの非現実的でカラフルな味を組み合わせ、購入時に「次はどれを試そう?」というワクワク感を演出しています。
このブルーラズベリーはZ世代・ミレニアル層からの人気が高く、2024年には単品パッケージとして独立販売されるまでになりました。
アメリカの小学校でも大人気なハイチュー
これだけ多彩なフレーバーが揃っていることで、アメリカの子どもたちの間でもハイチュウは人気を集めています。
特に小学校では「スナックタイム」という文化があり、「今日はどの味を選ぼうか?」というワクワク感が、日常の楽しみとして定着しています。
このようなシーンに対応するため、ハイチュウはパッケージ形式にも工夫を凝らしています。
例えば、少量で携帯しやすいスティックタイプ、複数フレーバーが楽しめるペグバッグ、家庭でのシェアに適したスタンドパウチ、手軽につまめるバイツ(日本でいう「ハイチュウMini」のような形)など、シーンや用途に応じて選べるラインナップとなっており、味と一緒に“使いやすさ”も提供しています。

参照:https://www.hi-chew.com/
味だけでなく“意味”を設計する時代へ
ハイチュウの味戦略は単なるフレーバー展開ではなく、「どのように味覚を文化的に翻訳し、ブランド体験として提供するか」という高度なコミュニケーション戦略です。
日本の味覚の常識を押し付けるのではなく、現地の嗜好や文化に合わせて設計し直す。その柔軟さと工夫こそが、アメリカ市場で“定番”として根付いた理由の一つと言えるでしょう。
アメリカ市場で“知られる”まで
ハイチュウの認知拡大戦略
ハイチュウがアメリカ市場で「知っているお菓子」として定着するまでには、単に味のローカライズを行うだけではなく、その価値をいかに伝えるかという戦略的プロモーションの展開が不可欠でした。
ボストン・レッドソックスから始まった、思わぬブレイク
アメリカにおけるハイチュウの認知拡大は、スポーツの現場から始まりました。きっかけとなったのは、MLBボストン・レッドソックスに在籍していた日本人投手・田澤純一選手です。
彼がチームメイトに日本のお菓子としてハイチュウを配ったところ、その味と食感が話題に。クラブハウス内での人気が広がり、やがてスタジアムでのファン向けサンプリングへと発展しました。
これが、森永製菓がアメリカ市場での本格展開を決断する一つの契機となり、2015年にはノースカロライナ州に現地製造工場を設立する流れへとつながります。
以降の主な認知拡大施策(時系列)
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MLB球団との提携拡大(2015年〜)
シカゴ・カブス、セントルイス・カージナルス、デトロイト・タイガース、ボルチモア・オリオールズなど複数球団と提携。
スタジアムでの試食イベントやファミリー向けアクティビティを通じて、現地ファンとの直接接点を創出。 -
Z世代向けのキャンペーン展開(2023年)
クリエイティブエージェンシー「Gigasavvy」と連携し、「Choose Different. Choose Fun. Chew Hi-Chew」をテーマにSNS広告と動画プロモーションを展開。
ブランドの個性、多様性、遊び心を視覚的に訴求。 -
Youth Baseball & Softball Sundaysへの協賛(2024年)
エンゼル・スタジアムで開催される家族向けイベントのスポンサーとして参加。
若年層およびその保護者層との認知構築を図る。 -
ブランドマスコット「Chewbie(チュービー)」導入(2024年)
視覚的に親しみやすいキャラクター「Chewbie」を起用し、SNS・イベント・屋外広告などで露出。
タイムズスクエアのデジタルサイネージやテレビ番組出演など、話題性ある展開を実施。 -
Sloomoo Instituteとの提携(2024年)
体験型施設「Sloomoo Institute」とのコラボにより、ハイチュウをテーマにしたスライム展示・DIY体験を提供。
味覚にとどまらない五感を使ったブランド体験を創出。
その他の認知拡大施策
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ポップアップショップ「Bite Size Candy Shop」の開催
ニューヨークなど主要都市での期間限定ショップを通じて、新商品「Hi-Chew Bites」の試食体験を提供。
SNS拡散のきっかけに。 -
SNSマーケティングの強化
視覚的に魅力ある商品特性を活かし、動画・写真で味の多様性を訴求。
- Instagram(@hichewusa):約105,000フォロワー
- TikTok(@hichewusa):約154,700フォロワー/累計約652,800件の「いいね」

参照:https://www.instagram.com/hichewusa
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ECチャネルとロイヤルティプログラム「Chew Crew」の運用
公式通販サイトを通じて全フレーバーを購入可能に。
ポイント制プログラムによってブランドファンを囲い込み、継続的な接触を促進。
認知は「体験」から始まる。味を記憶に残すプロモーション設計
こうした施策に共通するのは、単なる広告ではなく、“体験として味わってもらう”という一貫した姿勢です。
味そのものを主役に据えたリアルな接点と、視覚・感覚・ストーリーを融合させたデジタル展開によって、消費者に「知るきっかけ」を提供してきました。
商品がいかに優れていても、伝え方を誤れば市場に浸透することはありません。
ハイチュウの事例は、アメリカ市場で日本企業が成功するためには、“良いものを作る”だけではなく、“良さを伝える場と方法を設計する”ことの重要性を明確に示しています。
貴社の商品は“仕様”も“伝え方”もアメリカ市場に合っていますか?
ハイチュウの事例が示すように、アメリカ市場で成功するには、現地の文化や嗜好に合わせた「調整」と、それを“記憶に残るかたちで伝える”ための「プロモーション設計」が欠かせません。
MCECは、少量から始められるテストマーケティングから、現地消費者やバイヤーの反応データをもとにした商品調整、そして現地での認知拡大支援まで、段階的にサポートいたします。
貴社のアメリカ展開における第一歩を、確実に成果につながる形で導きます。
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