
アメリカの書店・文具業界とBarnes & Noble(バーンズ&ノーブル)の今
書店に再び注目が集まる時代へ
近年、SNSを通じた本の紹介・レビューが若年層の読書習慣に大きな影響を与えているのをご存じでしょうか。特にTikTok上の「#BookTok」コミュニティでは、感動的な読書体験やおすすめ本が拡散され、ベストセラーが生まれるきっかけともなっています。日本の流行りに言い換えると「読書界隈」とでも言うのでしょうか。このような動きは、実店舗を構える書店にとっても追い風となっており、棚にコレクションされた書籍が若者のコレクション欲をそそり、手に取って飾れる紙の書籍が注目を集めているのです。
その中で、1886年創業のアメリカ最大の書店チェーン「Barnes & Noble(バーンズ&ノーブル)」は成長を続けています。2000年以降、Amazonの台頭によって多くの書店が閉鎖を余儀なくされる中、バーンズ&ノーブルはアメリカ最大の書店チェーンとして、2025年2月時点で全米50州に653店舗を展開。書店業界のリーダーとしての地位を確立しています。
同社は書店という枠を超え、文具、玩具、カフェなど多彩なサービスを提供し、進化を続けています。
大学との連携と多店舗展開
バーンズ&ノーブルは小売店舗のみならず、全米の大学の27%にあたる1366校とも提携しており、教科書や参考書の販売を行っています。小売店舗に限っても全米に653店舗(2024年末時点)を展開し、バーチャルストアも592店舗に達しているという情報もあります。
近年はさらに勢いを増しており、2023年に30店舗、2024年には過去最多の57店舗を新規開業。2025年には60店舗以上の新設が計画されています。
スターバックスとの協業:ソーシャルハブとしての書店
1993年、スターバックスとの提携により、バーンズ&ノーブルの店舗内にはカフェが設置されるようになりました。これにより、訪れた人々はコーヒーを飲みながら本を読む「座り読み」が可能となり、店舗は「読む」「休む」「語らう」ためのソーシャルハブへと変化しました。2023年には2019年比で6%の売上増という成果を出しています。
現在、400店以上の店舗にカフェがあり、スターバックスが原材料を供給、運営はバーンズ&ノーブルが担う分業体制が構築されています。
コロナ禍と読書ブームの再燃
冒頭でTik Tok上のBook tokについて触れましたが、コロナ禍も書店業界にとって一種の追い風となったと言えます。「家でゆっくりと時間を使う」人が増えたことで書籍全体の売上も伸長。特にマンガやグラフィックノベルの人気が爆発的に伸び、500%の成長を見せたというデータもあります。
日本製文房具の展開と市場対応
バーンズ&ノーブルは、文房具部門において日本製品を積極的に導入しています。たとえば、「ナカバヤシ」の「ロジカルエアーノート」は軽量で書き心地が良く、万年筆対応という特徴を活かし、アメリカの消費者にも支持されています。他にも、日本のデザイン性と機能性を兼ね備えたノートやペン、シールなどが棚に並び、高品質な文具を求める顧客層を引きつけています。この取り組みは、日本企業の輸出機会を拡大するだけでなく、アメリカ市場における日本ブランドの認知度向上にも寄与していると言えるでしょう。
ただし、日本の文房具や日用消費財(FMCG)がアメリカ市場に進出する際には、日本と同じ商品をそのまま持ち込むのではなく、現地の消費者ニーズや生活習慣、使用環境に合わせた「パッケージデザイン」や「機能の調整」が極めて重要です。成功するためには、入念な市場リサーチやテストマーケティングが不可欠であり、たとえ国内で人気がある製品であっても、そのままの仕様では響かない場合があります。


玩具・雑貨・コレクタブル商品の充実
店舗では書籍や文具だけでなく、玩具や雑貨も多く取り揃えられています。特に日本のアニメやゲームに関連した商品が注目されており、バンダイの「ガンダム」プラモデルや「ドラゴンボールZ」のフィギュア、様々なジャンプ作品とFunkoとのコラボグッズなどが人気を博しています。
さらに、レトロなレコード盤の売り場も拡充。アナログ回帰の流れを反映し、徐々に人気が高まっている模様です。また、「大人の塗り絵」はメディテーション効果が注目され、特にエグゼクティブ層から支持を得ています。


マンガ需要への対応と成長機会
同社は、アメリカにおける日本の漫画人気の高まりを的確に捉えています。主要店舗では『ワンピース』『鬼滅の刃』などの人気作品やその英語版を揃え、若年層を中心に需要を獲得。2021年には書籍売上が2019年比で14%増と急成長し、マンガがこのトレンドを牽引したと推測されます。さらに、2023年以降の店舗拡大(2023年に30店、2024年に57店)により、マンガの流通網を強化。日本企業にとって、バーンズ&ノーブルはアメリカにおける漫画販売のパートナーとして重要な存在となりつつあります。

再構築による成長と日本企業への示唆
2019年に投資会社エリオット・アドバイザーズによって買収されたバーンズ&ノーブルは、新CEOジェームズ・ドーントのもとで事業再構築を進めました。従来の大型店舗から、小型店舗へのシフトと地域ニーズに応じた品揃えの最適化が進み、堅調な業績回復につながっています。
このように、バーンズ&ノーブルは日本製品の魅力を活かしながら、アメリカ市場で独自の存在感を放っています。文房具、マンガ、トイの各分野において、日本企業が同社と連携することは、ブランド価値の向上と販路拡大の両面で大きな意味を持ちます。
まとめ
SNSやコロナ禍の影響を受け、アメリカでは再び書店に注目が集まっています。バーンズ&ノーブルはその中心的存在として、さまざまな形で成長を遂げています。
- バーンズ&ノーブルは全米に653店舗を展開し、大学1,366校とも提携して学習支援を行っている。
- スターバックスとの協業により、400店舗以上でカフェ併設型書店を実現。
- マンガやグラフィックノベルの人気が急上昇し、若年層の来店を促している。
- 日本製文房具やアニメ関連商品も高く評価され、販路としての魅力が増している。
- アメリカ市場進出には、現地ニーズに合わせた商品設計と丁寧なリサーチが不可欠。
バーンズ&ノーブルとの連携は、日本企業にとってアメリカ市場進出の大きな足がかりとなるでしょう。